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甲子園
 僕がどんなにヘコんでいようと、そんなことにはまるでお構いなしの暑さである。
 日差しは強く、セミの自己主張は激しく、そして甲子園には金属音が響く。

 高校野球が好きだ。自分と選手との日常の違いに思いをはせながら眺めるのが好きだ。

 甲子園には、もう決して足を踏み入れることができない聖域のような厳かさが宿っている。そこに立てる者と立てない者との差が毅然としてある。

 ……と書くと、僕が高校球児だったようだが、僕はバスケットボール部で、甲子園を目指したことは一度もない。高校の頃は「なんで野球の全国大会だけあんなちやほやされるんだよ……。バスケで全国大会に行ったって応援団も来なければ、テレビにだって映らないのに」と不満に思っていた。
 ……と書くと、僕がバスケで全国大会に出場したように聞こえるが、県大会ベスト16止まりだった。

 それはさておき。

 高校野球は、試合終了後の校歌斉唱がいい。

 勝ったチームの選手たちは、ホームベースの後ろに整列し、校歌を斉唱する。彼らは喜びをかみ殺し、もっともらしい顔をしながら校歌を唄う。
 校歌を唄い終え、グランドに一礼する。そこで、窮屈な儀式から解放される。雰囲気が一変し、素顔に戻る。
 この瞬間がすごくいい。

 選手たちが、応援団への挨拶のためにスタンドに向かって走る。人は嬉しいとこんな走り方になるのか。あまりに無防備ですがすがしい。
 挨拶をする選手たちは、みな特別な顔をしている。
 ごく限られた人の、ごく限られた時期にしかできない顔を見るために、夏が来る度に甲子園球場のスタンドには大勢の人間が訪れる。フェンスで隔たれて、自分には行けない場所に行けた者の特別な顔を見るために。
 甲子園とはそういう所だ。

 きょうは決勝戦。どちらが勝っても初優勝。どちらも、もう十分すぎるほど特別だ。どちらもがんばれ。

 笑っても泣いてもきょうで最後ならいずれにしてもあすは最初だ(仁尾智)
by satoshi_ise | 2013-08-22 07:20 | 日記
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