連作20首「Cager -籠の人-」(仁尾智)
花道も流川も安西先生もいない時代のバスケ部のこと

毎日のように殴られ血の味がまるでお口の恋人でした
一列に並んでビンタを待つあいだ校舎に響くフルートの音
左からビンタの音が近づいて 近づいて 気がつくと医務室
今週のビックリドッキリメカ並みにあるべきこととしての体罰
僕じゃない誰かの頬が腫れていく日にホッとする自分が嫌い
水分の補給は禁止 おしぼりを隠れて吸うとおしぼりの味
殴られて鍛えられたりするようなヤワな根性なしじゃなかった
駄菓子屋でチェリオ片手に「痛くない殴られかた」がきょうのアジェンダ
転校はお別れなのに羨望のまなざしで僕をみる同級生

だからがんばれるわけではないけれど意外と透ける女子のTシャツ
しつこくて粘着質で地味でM つまりディフェンス向きの性格
水分の補給は必須 僕たちにポカリが教えてくれた常識
キャプテンを決める会議が長引いて帰りたいからする立候補
キャプテンが決まるとすぐに「じゃあ副は僕が」だなんて 吉田の奴め

中指が離れたらすぐ 二秒後の三得点にガッツポーズを
自由とは重圧なのだ フリースローラインでよぎる外した未来
のむ息と止まる時間と落下するボールとゆれるネットの音と
バスケでは仏の顔も四度まで ファイブファールでまた蚊帳の外

長い長い余生の途中 高3の夏に敗退してからずっと
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by satoshi_ise | 2008-06-16 00:30 | 短歌 | Comments(9)
Commented by 枡野浩一 at 2008-06-16 04:36 x
この連作、ずっと見守っていて、気持ちはよくわかるのですが、体罰が当たり前だった時代を知らない人には届きにくく、知っている人には「小説にしたほうが……」と思われてしまう可能性が高い気がしています。短歌にする意味……考えてみてください。
Commented by satoshi_ise at 2008-06-16 09:04
枡野さん
ご無沙汰しています。
紆余曲折を経て、二十首の連作になりました。
お忙しい中、ありがとうございます。コメント、とてもうれしいです。
>体罰が当たり前だった時代を知らない人には届きにくく、知っている人には「小説にしたほうが……」と思われてしまう可能性が高い気がしています。

そうですよね。
考えていたよりも体罰色が濃くなってしまいました。
小説やエッセイのほうが届いたかな……。

>短歌にする意味……考えてみてください。
発表する、しないの判断はともかく「一度どこかで(短歌として)書かないと次に進めない」類のテーマだと思って書きました。
そういう意味では「短歌にする必然性」があったのですが、それはあくまで自分の中での必然性でした。

一度「四月」にもお邪魔したいです。
Commented by coldleaf at 2008-06-17 15:07
個々についてはもう感想を言ってしまっているのもたくさんあるのですが、全体で読めるとまた違った嬉しさがあります。

で、全体としてみると、構成(視点の変化やテンションの波も含めた)がすごく好きです。「必要な情報の提示」と「説明的すぎる」の間のラインってやっぱ苦労すると思うんですけど、導入の2首、そして最後の1首がその役割をしっかりはたしていると思いました。

>>考えていたよりも体罰色が濃くなってしまいました。

僕的には、9首使っている体罰よりも最後の4首使った試合の部分が、やはり一番のヤマのように感じました...もっとも仁尾さんの感じてらっしゃる「バランスの不具合」は単純に量的な問題だけではないと思いますけど。

あ、ちなみに日本に帰っていたのですが、新宿で本屋の梯子をして、五行歌ストライプは結局見つかりませんでした...というかドラえもん短歌すら置いてないとはどういう了見か、三省堂(笑)
Commented by satoshi_ise at 2008-06-17 23:00
coldleafさん
コメント、ありがたいです。
>導入の2首、そして最後の1首がその役割をしっかりはたしていると思いました。
最初と最後ははじめから決めていました。
特に最後の1首がなければ、連作自体なかったかも知れません。
>もっとも仁尾さんの感じてらっしゃる「バランスの不具合」
カラリとしすぎても不気味だし、あまり重々しくてもつまらない、という意味で扱いが難しい9首でした。5首にしようかとも考えたけれど、うーん。

ストライプはまあ、なくて当然といえば当然ですが、ドラえもん短歌はおいとかないと、三省堂。
Commented by satoshi_ise at 2008-06-18 08:29
枡野さん
追伸です。
時間はかかるかもしれませんが、
「短歌の連作にしたからこそ届くなにか」を追って、改作します。
Commented by 枡野浩一 at 2008-06-22 13:27 x
思いきって
散文で詞書をたくさん書いてもいいかも。
エッセイ面白いと思います。
Commented by satoshi_ise at 2008-06-23 01:11
枡野さん
この連作自体散文的なので、
いっそ散文(詞書)の中に「核」のように
短歌を配置していくという構成で、
改作を挑戦してみたくなってきました。
>エッセイ面白いと思います。
ありがとうございます。
Commented by sasakiarara at 2008-06-23 03:14
>いっそ散文(詞書)の中に「核」のように
>短歌を配置していくという構成で、

というのは、なにか凡庸な香りがぷんぷんするので
よしたほうがいいのでは、と直感的に思った。
Commented by satoshi_ise at 2008-06-23 08:39
あららくん
「ありがち」に陥りそうってことだと思います。
いろいろ悩んでみるので、相談に乗ってもらえるとうれしい。
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