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泣く理由
 もう8年くらい前だろうか。当時付き合っていた彼女から電話がかかってきた。僕は大阪にいて、確か友人と梅田あたりをフラフラしていたのではないかと思う。夜中だった。



 電話に出ると、彼女は泣いていた。
 前の日に拾った子猫が持ちこたえられなかった、と泣いていた。それは号泣と言ってもいいくらいだった。延々と泣き止まない彼女を、とにかく落ち着かせたくて言った。
「昨日から、考えられる最良の方法で、できることは全部して、それでダメだったんだから仕方ないよ」
 彼女の話を聞いて本当にそう思ったし、その言葉で少しでも彼女が楽になればいい、と思った。
 彼女は泣きながら、でも心の底からあきれるように言った。
「助けられなかったとか、何かほかにできることがあったとか、そんな理由はどうでもいいんだよ。ただ悲しいから泣くんだよ」
 そうか、泣くというのはそういうことか。僕は、そんなことすら言われないと気づけなかった。
 彼女に落ち度がないことを懸命に力説していた的外れ加減が、滑稽で、情けなかった。この敗北感はなんだろう。
 僕は多分、ただ悲しいから、という理由で泣いたことがない。
 梅田のネオンは、なんだかペラペラで、僕を照らすのにはちょうどいい、と思った。
 寒い夜だった。
by satoshi_ise | 2009-01-06 00:13 | その他
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