連作
連作「やらないでおく」 仁尾智



野球、嘘、捨てゼリフ、駄々、体位、UNO 全部ひとりの部屋で覚えた

「このどこでもドアさえあればいつだって行ける」ときょうも家から出ない

なんだっていいから自信が持ちたくて毛糸洗いをアクロンでする

「この家はどうだ?」と猫に聞いてみる 何も言わないのをいいことに

憂鬱なあすがくるのがいやだから眠らないまま迎える朝だ

「君だってやればできる」という嘘を信じたいからやらないでおく

現実と夢以外には何もない世界だったら楽だろうけど

猫のえさしかないけれど空腹だ 猫のえさならある 空腹だ

わかるなよ あなたにわかるかなしみはあなたのものでぼくのではない

去勢したうえ軟禁している猫に癒されたりして申し訳ない

私物にはすべて名前を書いていて使うと怒る上田が嫌い

悲しみは私語を慎み腕を組み少し離れて眺めるものだ

あと何度「はじめまして」と言うだろう 二度目があるのは何人だろう

帰りにはもう通れない坂道が白くまぶしく悲しくはない

嘘っぽい青さがいやだ 雲ひとつないにもほどがあるきょうの空

猫じゃないことを確認されながらまた轢かれていく車道の軍手

「保育園前」という名のバス停の後ろにはもうない保育園

もう僕が拭いた机と知りながら また拭きなおす上田が嫌い

「今は楽 わたしらの頃に比べれば甘すぎ」という上田が嫌い

恋をしなければ気づかなかったけど自分の鼻の形がイヤだ

君を待つときは二度目の本を読む うわのそらでも平気なように

自転車で君を家まで送ってた どこでもドアがなくてよかった

きっかけがフジテレビだったことなんてチャンネル争いくらいなものだ

君とした「ひみつ道具でどれが好き?」みたいな話ばかり思い出す

愛なんてわからないけどおにぎりは誰かに作ってもらうと旨い

「これ前に教えたよね?」と教わってないことをいう上田が嫌い

僕のミスじゃないとわかったあとでさえ詫びを入れない上田が嫌い

「わからないことは聞いて」というくせに聞くと無視する上田が嫌い

教室の隅で誰かの陰口を言ってたはずの上田が嫌い

動物が好き(らしい)っていうところ以外すべての上田が嫌い

笑っても泣いてもきょうで最後ならいずれにしてもあすは最初だ

<10/4追記>
下記を変更して、10/4に再度投稿しました。

・タイトルを変更しました。
・並び順を一部変更しました。
・数首、改作しました。

<10/14追記>
下記を変更しました。

・「青田」→「上田」
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by satoshi_ise | 2005-09-30 13:10 | 短歌
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